the ruins of a castle 『最初はぐー』と言えば、初めに出すのはぐーに決まっている。 なのに、いるのだ。最初から『ぱー』を出す奴が。 そんな奴らは、決まってこう言われる。 「じゃあ、そこの砂漠の探査はそこの『パー』の二人に行ってもらおうかしら。」 エマは、パーを掲げたまま立っているゼットとザックに向かってそう言った。 二人はパーを掲げたまま顔を見合わせ威嚇しあう。それを見てハンペンが嘆いた。 「人ともあろう種族が、唸りあうとは世も末だね。」 小さな手を持ち上げて、やれやれと首をふったパンペンにエマが視線を送る。 「ああ、知的ネズミさんにも付いて行ってもらうわよ。」 「おいらもかい?」 「この二人では、足して二で割っても、貴方に遠く及ばないであろう知的レベルに不安がありすぎなのよ。」 鼻に掛けた眼鏡の中心を押さえて思慮深い表情になるエマ相手に、さもありなんと頷いたハンペンの尻尾を引っつかんで、ザックが唸る。 「あんだって?」 「そうやって、すぐ威圧的に対処するあたりが知的コミュニケーションを不得意とする人種という評価を受けてもしょうがないんじゃないのかな?」 ふふんと、斜めに見られてザックの額の皺が増える。 ネズミに言い負かされ、ザックは魔族に助けを求めた。←人としての尊厳は? 「おい、ゼットあの言い草は無いよな〜。お前もそう思うだろう?」 そう言って振り返ると、ゼットはいない。 「おい?」 未だに詰襟姿のロディが、ちょいちょいと指差す方向を見ると、体育館裏の甘酸っぱい情景が、繰り広げられていた。 こちらも未だメイド姿のアウラちゃんが(セーラー服にしておけばよかったわ エマ談)赤いチェックの弁当包みを両手で持っている。それを頬を染めて見つめるゼット。 思わずザックは、顎を外した。 「遠くへお出掛けになる聞いたので、これを作ってみました。」 アウラはそう言うと、すっとゼットに前に差し出した。 「お、俺様の為に…?」 「はい。ファルガイアを守る大切なお仕事をしてらっしゃるん だって、エマさんに伺ったんです。だったら私も何かお手伝いだいしたいと思いました。」 そして、満面の笑顔を彼だけに向けた。 「お仕事頑張って下さいね。」 これで落ちない男はいない(本当なのか!?) ゼットは既に感激のあまり滝涙を流していた。(参考某局長) えぐえぐと嗚咽を漏らしながら、アウラの手から包みを受け取ろうとして、涙に霞んで手元が狂う。 「あっ。」 小さな悲鳴を上げるアウラの手から包みが落ちる。しかし、ゼットは稲妻サーブを受け止めるバレー選手のように、回転レシーブを決めて、落ちてくる弁当を握った拳に受け止めた。 問題と言えば、そのままレシーブを決めてしまった事だろうか。 再び弁当は高く舞い上がった。 oh! MY God!!!!!!NO!!!!!!!!!!!!!の叫びでゼットの顔が固まる。 「…おい。」 しかし、それを両手で受け止めたザックにはトスを上げる気はさらさらなかった。 「良かったね。ゼット。ザックが拾ってくれたんだ。」 ロディは笑顔で弁当をザックから受け取るとゼットに手渡した。 震える手でそれを受け取ると大事そうに胸元に抱き込む。えぐえぐ嗚咽を漏らす声が、部屋響く。 「アウラさんから頂いたお弁当が駄目にならなくて本当に良かったですわね。」 セシリアの言葉に、涙で目をまん丸にしたゼットが何度も頷く。 小動物眺めているような気分になったザックはボリボリと頭を掻いた。 「そこのペアは決まったから、残り決めるわよ〜!」 エマの声とともにもう一度、ジャンケンが始まった。 ゼットは、まだ弁当を握り締めている。その横にアウラが腰を下ろした。 「ゼットさん。」 「アウラちゃん、ごめんね。弁当駄目にしそうになっちゃって…。」 うるうるゼットに、クスリとアウラは笑う。 「大丈夫です。ゼットさんには何度でもお作りしますから今度はデザートもつけちゃいますね。」 感激のあまり唇を噛み締めながら何度も頷くゼットを、不憫なものを見るような目つきでザックは暫く眺めていた。彼の背中では、ペアじゃんけんが異様な盛り上がり感じさせる声が響いている。 なんだかなぁ〜と呟くザックの肩にハンペンが登って来た。 「この魔族も一緒にいくん だよね。」 「不満なんだろう?」 「面倒をみなくちゃいけないのが二人に増えたってところかな。」 えらそうにそう言われて、へ〜へ〜どうせあっしはパーですよ。とぼやいたザックに向かってハンペンは少しだけ楽しそうに指(?)を振ってみせた。 「ロディやセシリアに会う前に戻ったみたいだよね。…あの魔族を除けばさ。」 ああ、そうかとザックは笑ってみせた。 「よろしく頼むぜ、相棒。」 パーの二人+ネズミ+アウラちゃんが見守るなか、ペアは以上のように決定した。 エマ+マグダレン=女王様が変わっただけコンビ ジェーン+ニコラ←てかいつの間に頭数に入っていた=親子遠足。 ロディ+セシリア=作者思うつぼ。頼む話を続けさせてくれ。 これと、パーゼット+パーザック+ハンペン=探査する気があるのか!?コンビとなった。 それぞれ、別々の砂漠に飛び。まだ見つかっていないエルウの祠を探す事となる。 「で、エマ博士?どのようにして参りましょうか?」 そう問い掛けたマグダレンにロディ達が青くなる。いやんな記憶が走馬燈のように蘇ってきた。 「そう言うと思ってたのよ。」 エマは、にやりと笑って何処かで聞いたような台詞を吐くと、自分の横にある壁に手を当てた。 「ま、まさか!?エマまたかい!?」 「またって何よ?」 エマはそう言うと、壁に張ってあった紙に手を伸ばした。 そして、壁からひっぺがしたそれをニコラに手渡す。 それには大きく借用証と記してあった。見れば、サインはドレイク船長のものだ。 「あのゴブリン船の修理を頼んで来たくせに、一文無しなのよ。替わりになんでもしますって借用証を書かせたからコレを使って行ってちょうだい。」 「え〜あの船長の船なの!?」 ジェーンは、あからさまに嫌な顔をする。 ニコラは知るよしもないが、ドレイク船長はロリコンで悪名高い。ジェーンなど、ストライクゾーン真っ只中だ。 そして可愛らしい唇に、人差し指を当ててこう呟く。 「金払いはいいけど、気色悪いのよね。」 「え?ジェーン?今なんて?」 娘の台詞に、一瞬目が点になるパパ。 「ううん。なんでもないわ。さ、パパ、行きましょう。」 ジェーンは慌てて口を抑えると、にっこりと笑う。そして、父親と腕を組んで出口に向かってあるき出した。 「お前と出掛けるなんて久しぶりだなぁ〜。こ〜んなに小さかった頃以来かなぁ。」などと楽しそうなニコラを除けば、皆が心に思う事は同じだ。 (援交…?ひょっとして援交なのか!?) 「と、とりあえずジェーンさんは、あれでいいとしても私達はどうすればいいのですか?」 セシリアの問い掛けに、エマの答えは簡単そのもの。 「ガルウイングはロディ君が操縦出来るんだから、貴方達はそれで行けばいいわ。私は此処から遠くには行けないから徒歩で回れるところに行くわよ。司令官は秘密基地にいなくっちゃね。」 「じゃあ、俺達にはどうしろと?泳いでいけとでも言うのかよ!?」 ザックの叫びはもっともで、彼女なら言いだしかねない予測ではあったが、今回は違った。 「あんたの相棒は魔族なんだから『空間転移』して貰えばいいじゃない。」 おおう!と感心したよ うに頷く魔族を横目にザックは冷や汗を流しながらこう尋ねた。 「で、お前は人間を連れて『空間転移』したことがあるのか?」 「無い。」 間髪入れずに返った答えにザックの冷や汗はさらに増した。 「でわ、行こう。」 「ちょっと待てっっ!!」 ザックの肩を掴んだゼットの手を薙ぎ払い、替わりに自分が両手でゼットの肩を掴むと顔を覗き込む。 「よ〜く考えてみようぜ。もしも、その『空間転移』とやらに失敗したら人間である『俺』はどうなるんだ。」 うぬ?と考え込んで からザックの顔を見た。 「ばらばら。」 「更に待てっっ!!」 ゼットの答えを受けていきり立つザックに、ゼットは人差し指を立てて真顔で言う。 「気にするな。」 「気になるわっっ!!!」 しかし、もとより人の話など聞かないゼットは両手で弁当を持ち直して、にへら〜と鼻の下を伸ばしてから、アウラちゃんに手を振る。 「行ってきま〜す。」 「はい。いってらっしゃいませ。」 「まてっ!この莫迦まぞ…ぎゃあああ!!」 (ご主人様)とつけば間違いなくメイドカフェのお見送り状態の アウラに見送られ、踏みつぶされた蛙のような悲鳴と共に二人の姿は消える。 「…ザック…嫌だったら手を離せば良かったのに…。」 肩に手をおいたままだった彼にロディがぽつりと呟いた。 content/ next |